視力には、遠くを見る遠見視力と近くを見る近見視力があります。例えば、教室で遠くの黒板の文字を見るのに必要なのは遠見視力、ノートや教科書など、目からおよそ30cm内の距離を見るのに必要なのが近見視力です。近見視力は、手を伸ばした範囲内の作業(近業といいます)の時に使われています。近見視力に問題があると、近くのものがはっきりと見えないだけでなく、目の疲れ、頭痛や肩こりなどの症状、集中力の低下などの弊害も起こりやすくなります。
読書、筆記、携帯電話操作、パソコン作業、料理など、私たちの日常生活は、世代を問わず近業をしている時間が大半を占めています。このようにみると、近見視力を普段いかに長時間使っているかがよくわかります。
近くを見続けることは、もともと目に大きな負担をかけています。
その上、近見視力に問題があるとなると、目への負担がさらに増えてしまうことになるのです。
一般的な視力検査は、5m離れた視標(しひょう)で測定する遠見視力検査です。近見視力検査は、目から30cmの位置に視標を置き測定します。健康診断では近見視力検査が行われないため、「遠くが見えれば、近くも見えている」と思いがちなので、近見視力不良には気付きにくいようです。
老眼とは、加齢により近くのものにピントが合いにくくなることで、目の水晶体の弾力が失われたり、水晶体を支えている毛様体筋が衰えるために起こります。小さな文字を読み間違えたり、近業の後に疲れ目や肩こり、頭痛などがする場合も老眼のサイン。40歳以上で、気になる症状があるという人は、眼科を受診して適正な治療や矯正を行うことが大切です。
学校では遠見視力の測定しか行わないため、近見視力不良はなかなか発見されません。しかも、近くが「はっきりと見える」という経験を持ったことのない子どもは、見えていなくてもそれが普通だと思っています。よく見えていないことが原因で、学習や運動の能力をうまく発揮できずにいるケースも実際にあります。視力の発達は、6歳頃に完成するといわれています。現在、近見視力検査は行われていませんが、周囲の大人が子どもの日常生活を観察することにより、目の異常や疾病の早期発見につながります。
近見視力は、日常生活に欠かせない視力であり、学習や仕事の能率にも大きな影響を及ぼします。日頃から目を疲れさせないよう心掛け、気になる症状があれば、眼科を受診するなど早めの対策を行いましょう。
監修:桃山学院大学法学部 健康教育 教授 高橋 ひとみ先生